【特集】小さな本づくりがひらく 独立系出版社の営みと日本の出版流通の未来
ここ数年、出版界隈で存在感を増している独立系出版社に焦点をあてた特集。
“大きな本づくり”から “小さな本づくり”の時代へと向かういま、誰にでもひらかれた営みとしての本づくりを考える。
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今号の特集で取り上げるのは、本づくりの舞台裏だ。手にした本に綴られた言葉の外側——その本の発行元、本づくりに携わった人々、出版された場所や刊行の経緯——は、読者が本を楽しむ体験に直接的に影響するものではない。世の中に本があふれ、読みたい本を読みたいときに手にしてきたわたしたちにとって、本や、本づくりに関わる人々の営みは、日常生活を支えるインフラのように、あって然るべき存在だろう。しかし近年、その当たり前は崩れてきている。街から書店が消え、紙の雑誌や本が少しずつ数を減らし、国内の出版産業の将来が危ぶまれるようになってきた。言葉を綴り、本を編み、後世に残していくという出版流通が担う役割を、これからの日本で誰が引き受け、守っていくことになるのか。そんな本づくりの未来をひらく存在として、独立系出版社に焦点をあててみたい。
インターネットの登場や、大手以外の取次会社、取引代行など流通販売の選択肢の拡大により、一般の書店やAmazonなどのネット書店でも多くの独立系出版社の書籍を購入できるようになってきた。近年では、同じく数を増している独立系書店の後押しや、ソーシャルメディア上での情報拡散など、ネット社会における出版販売のあたらしい在り方として小さな本づくりという生業は定着しつつある。
本特集では、ころから、rn press、夕書房、いぬのせなか座、エトセトラブックス、港の人、書肆侃侃房という7つの出版社/出版人たちを取材し、独自の視点やテーマ性をもって刊行された書籍やその佇まい、各社の出版活動の姿勢を紹介していく。また、各社の紹介と並行して日本の出版流通の状況を俯瞰するために、長年出版業界を見つめてきたライターの永江朗、東京・荻窪で書店Titleを営む辻山良雄、取引代行サービスを展開するトランスビュー代表の工藤秀之の3名に文章を寄せてもらった。あわせて、近年の出版動向と日本の近代出版史・装丁史を接続させる試みとして、装丁史研究者の臼田捷治による論考も収録している。特集後半の選書コーナーでも7名の書店や出版関係者に独立系出版社の刊行物を推薦してもらった。ぜひ、それらの本と出版社の活動にも注目していただきたい。