生命を礼賛する行為には驚くほどに価値がない、生はどこまでも儚く朧で、死はどこまでも切なく幻だ。そしてそれはただそれだけのものでありそれだけのものでしかなく、むしろそこにそれ以上の価値を見出そうとすることこそが冒涜だ。生きること、そして死ぬこと、その両者の意味を誰よりも理解し、そしてその意味に殉ずることに一切の躊躇がない誠実な正直者、つまりこのぼくは、八月、縁故あって奇妙なアルバイトに身を窶すことと相成った。それは普通のアルバイトであって、ぼくとしては決して人外魔境に足を踏み入れたつもりはなかったのだけれど、しかしそんなぼくの不注意についてまるで情状酌量してはくれず、運命は残酷に時を刻んでいく。いや、刻まれたのは時などという曖昧模糊、茫洋とした概念ではなく、ぼくの肉体そのものだったのかもしれない。あるいは、そう、ぼくの心そのものか—戯言シリーズ第五弾。【「BOOK」データベースの商品解説】